TFRK
A. 森林に関する伝統的知識の性質
 
1.伝統的知識(TK)とは、学習した技能を思い起こし、実行することによって日常生活の中で役立つように利用できる人間の記憶に保存された情 報である。このような文脈で、「森林に関する伝統的知識」(TFRK)という用語は、「統一性のある世界観と価値体系の中に統合された知識と経験の混ざり 合ったもの」という意味で使われることがよくある。「伝統的」とは、世代から世代へ伝えられるという意味であり、TFRKの場合は、伝統的知識とは、通 常、特定の場所、自然環境または生態系において、長い経験の過程で社会が蓄積してきた知識を包含している。それは全世界的な知識と対照的なものであり、後 者は地球的規模の経験から導き出され、「西欧」と他の広く行き渡った文化のそれぞれの科学的発見、経済的優先および哲学を結合したものである。
 
2.これらの言葉は自由に解釈することができるので、TFRKに関する文献は多種多様である。そのような文献は、生活様式が独自の伝統の影響を 強く受けている全森林居住者の精神的経験、哲学、政治、技術、生計活動および外部との関係を網羅している。彼らは、しばしば先住民という広い範疇に含めら れている。しかし、TFRKを持つ人々のすべてが必ずしも、本書やその他のフォーラムで使用されている意味での先住民とは限らない。森林原則の第5原則 (a)は、先住民および彼らのコミュニティーと「その他のコミュニティーおよび森林居住者」を区別しており、この点を認識している。伝統的知識の実務的定 義では、伝統性、文化的独自性、および各文化が適応している地域環境のそれぞれの結びつきを重視している。
 
3.人がある森林生態系を利用するとき、たとえ選択的植林、下刈り、萌芽、火入れおよび閑作によって、生態構造と樹種構成を変化させることは あっても、生態系全体を破壊することなく森林資源を収穫するにはどうしたらよいかを学ぶだろう。それぞれの場所と技術水準に応じて、森林と社会的行為者と の安定した関係が生じるが、この安定性は、新しい狩猟技法(武器等)、伐採機器(チェーンソー等)または取引の機会(道路、市場等)の導入によって崩れ る。しかし、伝統的な森林居住者は、多くの異なる社会的規則に従って、多くの異なる方法で多くの樹種を利用している。各アプローチには相対的に弾力的な面 があり、森林に関する伝統的知識、工夫および慣行の中で発展することができ、これらの知識が持続的森林経営に関連していれば、他の社会に教える面も多くな る。
 
4.どのような技術水準でも、少数の人々だけで協力して独占的に利用している資源は、多くの人々が競争し合って利用している資源よりも安全であ る。したがって、生活資源の利用権を特定の集団だけに制限する措置は、その持続的利用を促進することになる。なぜならば、資源アクセスのある集団は、資源 自体やそれを生産的に利用する方法について学ばなければならない他者よりも多くの機会を得るからである。その集団は、独自の長期的便益のために資源を利用 しようとして、注意深く、多少は持続的に資源を利用しようとする動機もある。独占的アクセス、知識および長期的見通しは、資源の持続的利用を促す重要な要 素である。しかし、そのためには、社会的規則の中に有効なアクセス管理規則があり、社会的規則が技術に適応するよりも遅いペースで技術が変化する必要があ る。
 
5.ある集団がTFRKを蓄積すると、他の集団とはいっそう区別される文化が発達する。しかし、他の集団の人々から共通の文化的および遺伝的要 素を継承したり、他の集団が類似する生態系の要求に適応したりするので、多くの類似点が存続する。したがって、各文化は、独特の地域性のある伝統的知識と 広く共有された知識を包含している。これら2種類の知識は密接に混ざり合っており、その文化全体に埋め込まれている。ほとんどの構成要素が、ある文化状況 から取り除かれると、例えばコンピュータのデータベースの保存と同じように、ほとんど意味をなさなくなる。しかし、受け容れ側の文化が新しい考えに開放的 で、特に似ている環境で、つまり移入された概念が意味をなす環境で育ったのであれば、多くの要素が新しい文化状況に入りやすい。
 
6.それ故、TFRKは次のような繋がりのある特徴から成っていると示唆される。
 
 (a)土壌、樹木、動物、河川、狩猟場、旧休閑地、聖域など、ある特定の森林生態系の構成要素に関する情報
 (b)それらの使用規則
 (c)異なる利用者間の関係
 (d)地元住民の生計、健康、取引および儀式の要求を満たすためにそれらを利用する技術
 (e)意思決定において、長期的見通しの中で当該情報、規則、関係および技術を意味づける世界観
 
7.これらのTFRKの側面は、国際社会にとって異なる意味をもち、様々な方法で利用することができる。例えば、森林の生態や森林生物の行動と 成長率に関する僅かなデータで、森林経営体制の設計、実施および監視を行う新しい方法が示唆されるかもしれない。TFRKを共有すれば、森林管理者は、地 元の社会制度に不必要な影響を与える方法を回避することができるかもしれない。森林生物をどのように育て、収穫したらよいか、または生物に危害を加えずに 森林土壌を利用するにはどうしたらよいかについて規則を定めれば、林業およびアグロフォレストリー制度を改善することができるかもしれない。競合している 集団間の社会的関係を調和的に保つための手がかりが見つかれば、都市社会をはじめとする他の社会でのストレスを緩和することができるかもしれない。伝統的 技術は、新しい技術よりも環境や社会にやさしく、いっそう広く利用されるかもしれない。
 
8.ここで、TFRKを森林経営に利用する方法を模索している国に3つの問題が提起される。
 
 (a)知識のほとんどが地元の状況以外では重要でないので、別の場所で実務的問題の解決には、一部の知識しか役立たないかもしれない。
 (b)ほとんどのTFRKが、非常に深く文化に根付いているので、科学的研究には馴染まないシャーマンの入神状態、治癒の儀式、ダンス、説話、イニシエーションおよびその他の慣行のような伝統的手段によってのみ取り出すことができる。
 (c)伝統的社会から国際社会へのTFRKの文化的伝承を推進するためには、前者に与える意思があり、後者に新しい考えを受け容れる意思があ ることが必要である。このためには、お互いに尊重し合い、理解し合う必要があり、2つの社会の間で不平等感があっては成り立たない。
 
 
          B. 森林に関する伝統的知識および財産権
 
9.現在はますます世界経済の大きな部分が売買情報に基づいているので、知的財産の性質と将来が中心的問題であると考えられることが多い。この ため、経済活動のすべてが、最終的に、ほとんどの人々にとっては直接、生態系の管理に影響され、その乱用は開発の目的達成に重大な影響をもたらすという事 実を曖昧にさせるおそれがある。それでもなお、知的財産は、種々の点でTRFKの利用に影響を及ぼす重要な問題である(Gadjil and Devasia, 1995; Walden, 1995; Convention on Biological Diversity, 1996; Programme for Traditional Resource Rights, 1996; Kay, 1996)。
 
10.知的財産に対する世界的アプローチには、主に2つのテーマがある。ひとつは、特定の新商品およびサービスの供給において、一時的に独占を 生じさせるために特許法が考案された。特許法の目的は、産業的に技術革新や新製品考案を引き出すことの多い投資を保護することである。典型的な特許法は、 発明が保護される条件として、新しいこと、役に立つこと、見てすぐにわかるものでないことを要求しており、出願書類で詳細に記述しなければならない。これ らの要件は、人が修正していない自然発生的な品目の特許化を除外しているように見えるが、このような除外は裁判所の判決や国際協定に照らして見ると狭まっ ている。例えば、多国間貿易交渉のウルグアイラウンド協定に含まれた、偽造品の取引など知的所有権の通商関連問題に関する協定6/は、締約国が「微生物以 外の植物および動物」を特許化から除外することを認めている(第27条 (3b))が、この規定は1999年に見直されることになっている。
 
11.もうひとつのテーマは、人の選択によって生じた植物品種に対する権利の設定に関するものである。植物品種改良者の権利と農場主の権利とい う異なるが、補完し合う概念は、品種の利用に関する一般的利益を保護することを目的としている。排他性や独占の意図はなく、むしろ素材の起源を認めなが ら、当該品種の共有、利用およびさらなる発展を促進しようとしている。
 
12.TFRKを集団的に所有しているコミュニティーのニーズに相応しい知的所有権制度の代案が提案され、伝統的知識を構成員の共有財産として 獲得し、その文化の統一的で譲ることのできない特徴を構成する方法が考慮された。そのような提案のひとつ(Nijar, 1995)は、TFRKに基づく工夫に工業的特許法を適用することを拒絶して、伝統的知識を取引の商品に転換すると、コミュニティーの連帯性を損なうおそ れがあるので、そのような転換には抵抗することを求めている。特に主張していることは、TFRKの商業利用は起こり得るが、その所有者の絶対的裁量でのみ 利用すること、および国家の主な役割は、それらの所有者の権利を保護し、守ることであるという点である。また、伝統的知識の利用をすべて対象とするコミュ ニティー知的所有権法を提唱している。この提案およびその他の提案は、伝統的な先住コミュニティーの考え方を国際協定に反映させる必要があるならば、財 産、イノベーションおよび通商に関する現在の見方を再考しなければならない範囲を示している。その他の見解では、特定の発明がTFRKに基づいており、市 場性が見込まれる場合(例えば、特定の製薬品の場合)、その有益性を認め、改善を提案しながらも、TFRKに特許法を適用すること自体が拒否すべきことで あるとしている。
 
13.植物品種改良者の権利という概念を修正して伝統的知識体系にまで拡大し、各知識体系全体で保有者の一般的利益を認める国独自の制 度を定めるべきことも提案された。数人の筆者は、ある特定の社会の過去、現在および未来の構成員が努力して伝統的知識を築くものなので、当該権利は個人よ りもむしろ集団に属さなければならないと強く主張している。国連食糧農業機構(FAO)の会議における決議S/89(1989年11月29日に第25回会 議で採択7/)で定義された農場主の権利という概念およびこの見解を支持する生物多様性に関する条約の規定。さらに、当該社会の承認を得ずに伝統的知識を 漏らす個人を雇うことは倫理的ではないだろう。TFRKは、その他の方法で保有者から強制的に奪うことはできないので、集団による保有を法律で認め、集団 としての保有者と、TFRKアクセスを求める個人や機関との間の協定によってのみTFRKアクセスを認めることは、正しいに違いない。
 
14.もしTFRKおよび慣行が、それを所有する人々の生活様式維持および持続的森林経営という2つの役割を果たすべきものであるならば、それらを政策と実行に移し替える必要がある。
 
15.パートナーシップには、対等な人々の間で合意と協力が必要であるが、補完的ニーズがあるので、森林経営パートナーシップ協定の交渉は、地 元住民、政府、調査員、公共および民間部門で関心のある企業、ならびにその他の関係者全員が、互いに尊重し合うことが前提である。これは、生物多様性調査 およびその他の調査契約にも等しく当てはまることである。どのような契約の取り決めであっても、何が公平であるかを決めるのは当事者であるが、最低基準を 法律で義務づけることはでき、コミュニティーおよび政府は、契約履行に協力し、非倫理的な行動を抑制することはできる。
 
              C. 森林経営の重要な特徴
 
16.持続的開発委員会は、当特別委員会の設置を勧告した際に、非持続的な人間活動による自然林の破壊進行を防ぐことが中心的課題であることを認めた8/。 当特別委員会が第2回会議で計画要素I.2.を討議したときに指摘したとおり、森林の減少と劣化の基本的原因は多様で相互に連関しており、森林経営部門や 森林立地を超えた生態的、社会的および経済的要因に根ざしている。現代の森林科学のみならず、TFRKの性質と潜在的役割を考慮した簡単な枠組みを定めら れるほど、森林破壊の原因はよくわかっている。したがって、原則的には、ある国の森林資産は居住地域と非居住地域に分けられるが、実際にそれは困難であろ う(図1)。
 
              図1 森林経営の重要な特徴
 
 
国有林資産
 
居住地域             
非居住地域
 
承認された住民および利用者   
未承認の住民および利用者
 
森林経営は、地元住民と政府のパートナーシップによることができる。   
森林経営は、有効なパートナーシップによることができない。
森林経営は、政府と企業の有効なパートナーシップによることができる。  
 
ニーズ:森林に対する対立的な権利主張を避けるための対話および交渉。 
ニーズ:政府が、伐採、森林保護、観光、生物多様性調査およびその他の産業を規制する。
 
豊富なTFRKをもつ長期的住民      
TFRKがほとんどない最近の移住者
 
ニーズ:パートナーシップに入る前に持続的森林利用法に関する教育。
 
森林に関するTFRKの多様な直接利用:保護、伐採、観光等。  
TFRKおよび在来樹種に基づく生物多様性調査。  
他の地元住民や政府とのTFRKの共有。
 
ニーズ:土地保有の確保教育、投資およびマーケティングの補助    
ニーズ:事前の情報提供による承諾、保有者の利益を保護するための契約/合法的手段。ニーズ:事前の情報提供による承諾および情報共有のために開かれたアクセス方法。
 
17.森林居住地域は、先住民の土地や領域内に位置していて慣習的権利があったり、森林居住者が利用したりしているが、非居住地域は、そのよう な利用や保有者の権利主張には妨げられない。しかし、森林の非居住地域という概念は、2つの理由から非常に注意して捉える必要がある。第一に、居住者がい ないと考えられている地域に、孤立した森林先住民コミュニティーがあることを、中央政府が認識している場合が依然としてある。第二に、多くの伝統的な先住 民コミュニティーが狩猟、採取または儀式的目的で実際に利用している地域が、政府や計画立案者が認識している以上に広範囲に及んでいることがよくある。
 
18.そのような非居住地域が存在するならば、森林資源の単独保有者としての国は、適当な場合に、その国家政策や国際的に合意されたガイドライ ンおよび最善の慣行に従って森林を利用するため、他の社会的行為者(国内および国際的)と計画立案および経営パートナーシップを直接結ぶことができるだろ う。このようなパートナーシップの目的は、
 
 (a)異なる種類の用途に森林を割り当てること(空間的計画過程)
 (b)保護、木材生産、流域の便益、観光収入または生物多様性調査のために森林を管理すること(管理過程)
 (c)ある地域の利用計画が、他の地域の利用に悪影響を及ぼさないようにすること(環境影響評価(EIA)過程)であろう。
 
19.ある国で、全集落の所在地および森林利用に関連する権利主張が確認されているとき、その森林資産を人間が占有する範囲は明らかになる。占 有が確立されているところでは、政府が持続的森林経営のために地元住民とパートナーシップを組んでその事実を活用することができる(図II)。これは、 TFRKが政府にとって役に立つ状況である。
 
20.持続的森林経営を達成するために地元住民が彼らの知識を活用するには、一般的なオプションが3つある。すなわち、
 
 (a)地方林の直接経営にTFRKを活用する。
 (b)TFRKおよび在来樹種を生物多様性調査過程で利用する。
 (c)TFRKから導かれる森林経営に関する着想を他者と共有することができる。
 
21.これらのオプションのいずれも、外部コミュニティー、技術援助、投資または市場アクセスがなければ完全に実施することはできないので、ど のオプションでもパートナーシップ型アプローチが相応しい。しかし、各オプションに異なる技術や資本の要件があり、便益の流れも違った結果になる。本書の 後半では、3つのケースすべてについて、この点の意味合いについて述べ、どのようにしたら適切な取り決めができるかを提案し、進捗状況を検討し、さらなる 行動の障壁を明らかにして、そのような障壁を克服する方法を提案する。
 
          図II 森林居住地域の管理
 
   全関係者間で交渉した合意によって所有パートナーシップを確立し、保有者の森林地を定める。
   詳細な空間的管理計画を作成するため、計画立案パートナーシップで当該地域に関する伝統的および慣習的知識を利用する。
   経営パートナーシップで下記の森林利用を行って管理計画を実施する。
 
保護林               
生産林        
転換林
 
精神的に重要な場所等   
自然保護区等
 
生物調査、観光、研究 
狩猟、漁業、採取、伐採
建設、農業
 
新知識および伝統的知識源               
生計、雇用および所得源
 
                 III. 発展の障害
 
1.主に必要なことは、TFRK所有集団を法律で特定して承認し、各ケースごとにTFRK自体を所有集団の共通財産として合法的に認めることで ある。一旦、中央政府がこれらの措置を完遂すれば、TFRK保有者との協定によってTFRKのアクセスと利用が可能になる。このような協定は、確立される パートナーシップの種類によって様々な種類があり、森林経営、生物多様性調査および情報共有の各パートナーシップが主なオプションである。
 
2.そのような取り決めを模索してきた国の経験で、共通の障害が幾つか生じている。例えば、森林のどの地域に本当に居住者がおらず、どの地域に 居住者がいるのかを決定する過程では、森林の居住や利用の定義が、国と権利主張者で一致しないという問題がある。後者は、彼らが狩猟のため、非常食源とし て、若者のイニシエーションの場として、拡大休閑制度の一部として、または先祖の墓所として土地を利用すれば、それで居住が成立すると考えるだろう。その ような誤解を解消するための交渉は元来、デリケートな問題であり、多くの要因によって遅れがちである。
 
3.例えばTFRKを所有するとは、地元住民が、土壌の肥沃度、狩猟場としての価値または精神的重要性の違う場所を、表面的な類似性にかかわら ずはっきり区別するということでもある。これらの要素は、当該立地を全体的に理解しているだけの政府交渉者側には全く欠けている。両者が認識している取引 費用の違いから、他の問題が生じることもある。例えば、政府が、時間のかかる交渉について異なる価値観をもつ地元住民と交渉するため、高価な上級官吏を採 用する場合である。補償の考え方も、文化によっては、補償を金銭よりもむしろ精神的な不均衡を是正するための費用として、儀式的な意味で捉えるので、両者 間で認識が異なる場合もある。政府交渉団が地元住民を尊重している証拠が、他のケースでは、金銭的な和解になる以上の意味を持つ場合もあるかもしれない。
 
4.「オンブズマン室」の設置も具体的に提案され、それは「単に地元先住民コミュニティーの資源に関する権利保護および便益共有について助言するだけでなく、彼らの資源に関する権利侵害の申し立ても代弁する」ことになる(WGTRR, 1996)。和解を促すもうひとつのオプションは、仲裁および和解機構の創設である。そのような仕組みをつくれば、森林およびその他の資源に関する利益対立を公平かつ平等に解決しようと模索する集団の手助けになるだろう。
 
5.多くの森林地域が最近、森林の未開発地域での経済的好機に惹かれて、あるいは貧困や土地不足を動因として、都会や農業地帯からやって来た移 住者に占有されている。そのほかに森林にやって来た新参者は、別の場所で開発プロジェクトに追い立てられたのかもしれない。いずれのケースでも、新参者は 新しい土地で役に立つTFRKをほとんど、あるいは全く持っていない。生物資源の持続的利用は、社会的規則によって、適切な利用に十分なほど資源をよく理 解している人々だけに限定して、利用者数を制限できるかどうかにかかっている。そのような規則は、ある特定の人々によって立案され、資源の知識が特定の場 所に蓄積されている。彼らが突然、適切な規則や知識のない人々と入れ替わったならば、資源破壊が起こるだけである。これは実際に、世界中で起こっている望 ましくない形の森林減少の主因である(Collins, Sayer and Whitmore, 1991; Sayer, Harcourt and Collins, 1992; Harcourt and Sayer, 1996; United Nations Environment Programme, 1995)。
 
6.この重大な問題は、森林未開発地域への移住や森林地域住民の排除を抑制する効果的な政策を政府が採用すれば、回避できるだろう。しかし、新 しい移住が既に起こり、後戻りができないところでは、新しい環境を損なわずにどのように生活したらよいかについて、政府が移住者の教育を推進することがで きるだろう。そうすれば、森林未開発地域について、コミュニティー内での環境教育が重要な役割を担うことになり、その地域で生き続ける伝統的な人々は、そ こでどのようにして持続的に生活すべきかを新参者に示す上で、非常に重要な役割を果たすことができるだろう。この提案は、西イリアンジャヤ(インドネシア 側のニューギニア)で、例えば、原住民が現在、インドネシア内の他の地域から移ってきた移住者に数で圧倒されている場所で、重要な要求として提示された (WWF, 1995)。
 
7.生物多様性調査に関するTFRKアクセス協定を策定する際の制約は、政策の枠組みや法的手段を検討している政府、および公正な生物多様性契 約について商業集団と交渉しようとしている人々が、法律およびその他の専門的助言を必要とすることである。コスタリカ国立生物多様性研究所(INBio) は、要請に応じてフィリピンやインドネシアなどにそのような助言を行った記録があるが、INBioもその他の研究所も、スタッフとコンピュータ使用時間の 必要を満たすために十分な財源が追加されなければ、大規模な助言活動は期待できないだろう。資金が十分にある国際的専門家機関および個人ネットワークのよ うな、国連大学/国連教育科学文化機関(ユネスコ)のTFRK部長などは、この重大な制約を取り除くことができるだろう。
 
8.異なる伝統的知識体系の保有者間で、また彼らと世界的森林管理者およびその他の人々の間で情報を共有するとき、障害が幾つかある。例えば、 使用されている多くの言語相互の翻訳が困難であること、関連情報の保管、アクセスおよび普及の共通基準の欠如、全TFRK保有者にインターネットアクセス を提供するための正しい技術および訓練の欠如などが挙げられる。
 
 
               IV. 結論および行動提案
 
1.当特別委員会は、第2回会議(E/CN. 17/1996/24)において、伝統的知識、森林利用の工夫および慣行、ならびに保全に関する専門的、技術的および科学的助言の提供に関わる一連の問題 は、さらに煮詰める必要があることを指摘し(パラグラフ88)、真剣に取り上げるべき問題を明らかにして(同89)、先住民の権利の効果的保護や公正な便 益共有の必要性を指摘した(同90)。これらの問題はすべて、本書の第I、IIおよびIII章で取り上げた。当特別委員会は、本章で本題に関する討議を方 向付け、最も相応しい結論および行動提案を明らかにしたい。
 
 
         A. 森林に関する伝統的知識の意義および財産権
 
2.TFRKは、主に2つの理由から持続的森林経営の強力な基礎になることができる。第一は、地元住民が数世代から多世代にわたって森林で生活 して得た情報および解釈体系の質に関わることで、第二は、そのような知識を得ることによって持続的森林経営に強く関与するようになることである。これは、 計画要素III.1(a)で検討された森林評価の質的側面に関わっている。
 
3.TFRKを特定の社会集団の共有財産として法律で認めるときに生じる主な障害は、保有者として特定された多様な集団との合意協定交渉が難し いことであろう。森林に関する政府間特別委員会のような国際的フォーラムは、この方向を選んだ政府に、持続的森林経営および価値ある新製品の発掘に TFRKが実際に役立つこと、また公平かつ公正な条件でのTFRKアクセスがあってこそ、各国の持続的開発努力に貢献することを他者に再確認させる貴重な 好機を提供する。
 
4.TFRKのほとんどは、それが発生した環境の外ではほとんど重要でなく、現場の持続的森林経営の手段として最大の価値を持つことになるだろ う。TFRKは、人々の承諾を得なければ、彼らから正当に取り上げることはできず、他とは区別される集団の共有財産であるから、そのような知識の利用を希 望する政府およびその他の人々が承認する必要がある。発生した場所や文化の外でも重要で、国際社会でも役立つ可能性のある形態のTFRKでも、商業的応用 ができないものもあるが、それでもなお保有者の知的財産である。
 
5.以下に述べるとおり、TFRKアクセス協定が必要に思われる分野が主に3つあることが認識されている。
 
 (a)森林居住者が、居住する森林の経営で肉体労働以外の仕事に携わる場合(TFRKに役割がある場合など)、これはパートナーシップ契約に 基づく必要がある。どんな資源を利用するにしても、その保有者、利用計画および利用管理に関して明確にしておく必要があるので、森林居住地域の管理には、 保有者、計画立案者および管理者のパートナーシップが必要になる。
 (b)森林居住者が、生物多様性調査に参加する場合(商業的可能性のある資源を特定するためにTFRKを利用する場合など)、これは、最終的な商業利用から得る公平な見返りを保証する契約に基づく必要がある。
 (c)森林居住者が、彼らの考えや経験を他者と分かち合う場合、これは、彼らに情報開示を管理させ、彼らの貢献を認める契約に基づく必要がある。
 
行動提案
 
・ 政府およびTFRK保有集団が、TFRKアクセスを可能にする正式の契約締結を検討すること。
・ 知的財産に関する総合的アプローチを確立して、森林に関する伝統的知識、工夫および慣行の保有者に、既存の知的財産制度で提供される権利および保護に匹敵するものを割り当てること。
 
 
              B. パートナーシップの確立
 
6.TFRKが最も重要な貢献をするのは、地方レベルで持続的森林経営法を明確に示すときであろう。
 
7.先住民、彼らのコミュニティー、他のコミュニティーおよび森林居住者が、パートナーシップ契約に全面的に参加して、他の関係者のために彼ら のTFRKを提供するためには、一定の条件を満たす必要がある。TFRK保有者は、彼らの土地保有取り決めで安心し、パートナーシップの他のメンバーと同 等の地位を認められたことを再確認し、彼らの文化的および生態的な価値と両立する共通の目的に納得する必要がある。さらに、参加に関する特別のニーズにも 対応する必要がある。
 
行動提案
 
・ 先住民、森林居住者および地方コミュニティーと持続的森林経営パートナーシッ プ協定を結ぶため、能力育成活動(例えば、交渉能力、持続的森林経営という課題の理解およびTFRKに対する外部の関心、法的支援など)ならびに参加の実 費を補償する仕組み(以前の肉体労働または社会投資および日常業務費用)を支援するよう、先進国および国際機関に求めること。
 
 
               C. 参加型アプローチ
 
8.先住民、森林居住者および地方コミュニティーは、資源管理機関、土地利用制度および対立の解消など、森林および土地管理の参加型アプローチ を明確に示すときに重要な役割を果たさなければならない。これは、当特別委員会の計画要素I.1、I.2、I.4およびI.5における将来の活動を成功さ せるために特に重要なことである。参加型アプローチおよび伝統的知識に関する文献は増えており、大部分が供与機関、非政府組織、先住民組織およびコミュニ ティー組織が直接プロジェクトで得た経験に基づいている。
 
行動提案
 
・ 森林原則2(d)および5(a)に従って、政府が先住民、森林居住者および地方コミュニティーに森林および土地管理への全面的参加の機会を提供し、促進するよう求めること。
・ TFRK および経験をいかに統合するかについて、中央および地方政府を支援するよう、TFRK応用の技術的ガイドラインの作成支援を、各国および国際機関に求める こと。これらのガイドラインは、法的および行政的な枠組み、関係者の特定、参加者の能力育成、参加機関の構造および手続、対立解消の仕組み、コミュニ ティーまたは非職業的参加者の報酬制度、TFRKの保管と検索のオプションなどの分野を含めて、地方レベルの持続的森林経営の開発、実施および計画立案で TFRKを活用するため、参加型パートナーシップを中心に据えるべきである。
・ TFRKパートナーシップの確立および参加型計画立案アプローチの適用を促進 するため、国内、地域および国際的専門家相談機関を設置するよう、各国に求めること。専門家は、国際機関、国際的供与機関、政府、先住民組織、地方コミュ ニティー組織、研究者、非政府組織およびその他のTFRK関連の参加型プロジェクトを直接経験した者から選ばれる。
 
            D. 森林に関する伝統的知識の管理
 
9.本書全体にわたって指摘したように、TFRKの取得、保管、検索および普及は、その発生場所以外では困難が伴う。これらの困難は、TFRK が圧倒的に特定の場所および文化に特異的な性質であること、またほとんどのTFRKがデジタル化、データベース保存または情報交換機構によるアクセスには 馴染まないという事実によるものである。ある生態および文化状況で発生したTFRKが、どの程度まで別の状況で持続的森林経営の目的に応じられるかは明ら かでなく、また実際の便益がどの程度あるのかも明確でない。もしそのような交換ができるならば、成文化された伝達手段よりもむしろ直接の接触や口頭の伝達 によって行われれば、もっと役に立つであろう。当特別委員会は、そのような交換の実行可能性および様式をさらに模索することを希望する。
 
行動提案
 
・ TFRKに関する体系的研究を引き受ける地域的および全国的な制度の確立を支援し、支援に必要な文化的および地理的情報の検索を補助する。
  その広範な理解と活用を促進するよう、供与者および国際機関に求めること。
・ TFRKのアクセス方法、その利用の便益およびTFRKを無視する危険性について気にかけている森林管理者に対するひとつの方法として、標準的な森林経営研修にTFRKを組み込むよう、各国、国内機関および学術センターに求めること。
・ 関係先住民と協力して、関係団体および機関のTFRK共有を推進している既存のネットワークに財政援助と支援を与えるよう、供与者および国際機関に求めること。
・ 森林財産を確定するための社会的地図作成と併せて、デジタル地図作成(GISおよびGPSの活用)を促進し、計画立案および経営パートナーシップを補助し、持続的森林経営計画の
 
 
          E. 生物多様性調査と便益の共有
 
10.TFRKは、生物多様性に関する条約第8条(j)で言及された「知識、工夫および慣行」を併せ持っており、森林生態系の遺伝資源は、第 15条で言及された遺伝資源の部分集合であるから、TFRKが商業価値のある新製品の特定で役に立つ側面は、同条約の範囲に含まれている。当特別委員会 は、同条約締約国会議の第3回会議でとりわけ下記の事柄を検討することを指摘しておきたい。
 
 (a)第15条(遺伝資源の取得の機会)を実施するために適当な国家的、立法的、行政的または政策的措置を策定する際に可能なオプション。
 (b) 第16条(技術の取得の機会および移転)第5項の含意を十分に理解するため、生物多様性の保全および持続的利用ならびにその利用から得る便益の公正な共有に対する知的所有権制度の影響。
 (c)先住民および地方コミュニティーの知識、工夫および慣行:第8条(j)の実施。
 
行動提案
 
・ 当特別委員会は、生物多様性に関する条約の締約国会議でこれらの問題を検討した結果を、当特別委員会の結論および持続的開発委員会への行動提案に組み込む方法や手段を検討したい。
 
 
           F. 森林に関する伝統的知識および先住民
 
11.当計画要素の委託条件は、「森林居住者、先住民およびその他の地方コミュニティー」を確認することである。森林原則5(a)は、「国家森 林政策は、先住民、彼らのコミュニティー、その他のコミュニティーおよび森林居住者の同一性、文化および権利を認め、適切に支持すべきである」と述べてい る。先住民および彼らのコミュニティーの同一性、文化および権利を認めるために、国連体制の中で特定の優先権や方法が与えられている。
 
行動提案
 
・ 当特別委員会は、他の関連する政府間手続過程を考慮する必要性を思い起こし、人権委員会内で関連問題、特に下記の事柄について検討中であることを指摘しておきたい。
 
 (a)先住民の遺産保護に関する特別報告者の報告(E/CN.4/Sub.2/1995/26)。
 (b)先住民の人権に関する国連宣言案の技術的見直し(E/CN.4/Sub. 2/1994/2/Add.1)。
 (c)先住民に関する作業部会の第13回会議における報告:先住民の常設フォーラムの検討(E/CN.4/Sub. 2/1995/24, sect.VII)。
 
・ 当特別委員会は、アジェンダ21第26章に、先住民および彼らのコミュニティーの役割を認識し、強化するための計画が含まれていることを改めて指摘しておく。同章の資料の多くが当計画要素と直接関係しており、当特別委員会はその勧告に言及したい。